亡くなったうちの父は、地元では有名な大工の棟梁でした。
私の幼い頃は、ハウスメーカーも住宅展示場もなく、家を売る
営業マンさえ存在しませんでした。だから、家を建てる時は
お客様からの依頼しかありませんでした。
それも、菓子折りと手付金の100万を持参して、先方が頭を下げて
懇願するという姿を、何度も見てきました。
父なんかは、「造ってやるから1年待っとけ」という感じでした。
今から思えばお客様に対してそうした態度は実に恐ろしいことだと理解
出来ますが、当時の私は当たり前に思えていました。
だから、今でも私には、そうした感覚が残っているのかもしれません。
まぁ、最低な奴なのです。
お金を頂いておきながら「売ってやっている。技術を教えて
やっている」という心が、つい最近まであったのです。
全くもっておめでたい奴です。勘違いも、はなはなだしいばかりです。
しかし、歳を重ねるにつれて、そうした考えは、人としてどうかな
とか、恥ずかしいことだと思えるようになったのです。
世の中、お金がないと生きていけません。生きていく為に必要な
ものを与えて頂けるお客様に、感謝出来ないなんて最低な心です。
だから、それに感謝して誠実に本物を提供させて頂かなければいけない
と思えるようになったのです。新しい技術の開発をしても、それを
教えてやってるではなく聞いて頂けることに感謝しなければいけない
と思えるようになったのです。
ただ、気づきはしましたが、実践となると人間力の低い私では、まだまだです。
だから、常に感謝の心を持たなければですが、なかなか難しいというのが
本音のところです。